この記事で分かること。教育実習の先生に子どもが集まる理由と、親・担任・友だちとは違う「ナナメの関係」です。自律性を支える関わりと、大学生メンターが放課後の学びに果たす役割を、教育心理学の研究も交えて解説します。習い事が続かないときの参考にもなります。
学校でこんな光景を見たことはないでしょうか。
教育実習の先生が来ると、休み時間に子どもたちが自然と周りに集まってくる。
授業が長年教えている先生よりも特別うまいわけではないのに、休み時間になると競うように話しかけ、最終日には「また来てね」と名残惜しそうに別れを告げる。
なぜ教育実習の先生は、これほど子どもに人気があるのでしょうか。
その理由は、単に「若いから」「珍しいから」だけではありません。その理由の一つとして考えられるのが、評価者・指示者としての役割を持たないことで生まれる、子どもと大人の「ちょうどいい心理的距離感(ナナメの関係)」です。
子どもが心を開く「話しかけやすい大人」の3つの特徴
教育実習中の先生は、まだ学校の規律を完全に「管理・統制する側」ではありません。子どもが自然と話しかけたくなる大人には、次のような共通点があります。
- 指示や評価(ジャッジ)を急がない
「正しい答え」を求める前に、「それ、どうやったの?」と子どものプロセスそのものに関心を持ちます。 - 子どもと同じ目線で迷い、試行錯誤できる
うまくいかなかったときに「じゃあ、もう一回やってみようか」と一緒に悩んでくれる柔軟さがあります。 - 少し先を歩く親しみやすいロールモデルに見える
完璧な大人ではなく、「自分より少し先を歩いているお兄さん・お姉さん」として映るため、失敗を見せても恥ずかしくありません。
もちろん、担任の先生には「クラス全体の安全を守る」「時間通りに指導する」「学習を評価する」という学校教育において欠かせない重要な役割があります。どちらが良い・悪いという話ではありません。
ただ、学校で一日中「指示や評価」に囲まれて過ごした後の放課後の時間にまで、同じ種類の関係性だけが必要とは限りません。
放課後の学びに求められるのは「先生」ではなく「自律性を支える大人」
小学生は、朝から何時間も学校で「話を聞く」「指示に従う」「正解を出す」という規律の中で頑張っています。
これは基礎学力を育むために欠かせない時間です。しかし放課後の学びまで大人が「次はこれをしましょう」「正解はこうです」と先回りしてしまえば、子ども自身が自ら考える時間や余白は失われてしまいます。
放課後に必要なのは、「どう思う?」「なんでそうなったんだろうね」「一緒にやってみる?」と問いかけてくれる大人の存在です。
「自己決定理論」と「自律性を支える関わり」
教育心理学における「自己決定理論(Deci & Ryan)」の研究でも、大人がすぐに正解や行動を指示するのではなく、子どもの意志や選択を尊重する「自律性を支える関わり」こそが、子どもの知的好奇心や内発的な動機づけ(自発的な学びへの意欲)を引き出すことが明らかになっています。
自己決定理論では、人の意欲や主体性を考えるうえで「自律性」「有能感」「関係性」という3つの基本的な心理欲求が重視されています(Ryan & Deci, 2000; Niemiec & Ryan, 2009)。
また、自律性支援と学習成果について153研究・179の独立サンプル、計213,612人を統合したメタ分析では、自律性支援は自律的動機づけ、学習への参加、自己に関する信念などのポジティブな学習成果と関連することが報告されています(Mammadov & Schroeder, 2023)。
大切なのは、単に甘やかすことでも放任することでもありません。子ども自身が試行錯誤する余白を残しながら、必要なポイントでそっと支える伴走の姿勢です。
「near-peer(ニアピア)」とは?親・先生とは違う「ナナメの関係」の教育的効果

教育の分野では、年齢や経験が比較的近い先輩やメンターが学習者を支援する関係性を「near-peer(ニアピア)」と呼びます。
親や学校の先生のような縦の関係(タテ)でも、同級生のような横の関係(ヨコ)でもない、第三者としての緩やかなつながり――これがいわゆる「ナナメの関係」です。
大学生メンターは大人ですが、小学生から見れば「先生というより、ちょっと大きなお兄さん・お姉さん」に近い存在です。
- 大学でいま夢中になっていること
- 子どものころに好きだった遊びや失敗談
- 最近知って面白かった身近な疑問
こうした話を、子どもの目線に極めて近い位置から共有できるため、子どもは萎縮せず安心して自分の好奇心や疑問を打ち明けることができます。
near-peer mentoringの研究では、大学生メンターが年下の学習者を支える際、知識面だけでなく、心理社会的な関わりが重要な役割を持つことも報告されています(Ortiz Galarza et al., 2026)。
答えを教えない教育――子どもの「探究する力」を伸ばす問いかけ
例えば、理科実験で予想と違う結果が出たとします。
知識や経験が豊富な大人なら、その科学的な理由をすぐに説明できるかもしれません。しかし、そこで「これは〇〇という現象だよ」と即座に教えてしまう必要はありません。
- 「あれ、なんでだろう?」
- 「さっきの実験と何が違ったかな?」
- 「もう一回条件を変えて試してみる?」
答えを知らないこと自体が目的なのではなく、「大人が正解を急いで渡さず、子どもが自分の頭で仮説を立てる時間を守ること」に価値があります。
「こうかもしれない」と仮説を立て、試し、違ったらまた別の方法を考える。この試行錯誤のプロセスこそが、自ら問いを立てて課題を解決する「探究学習(アクティブ・ラーニング)」の本質です。
探究型学習を扱った72研究のメタ分析では、子どもにすべてを任せるのではなく、適切なガイダンスを組み合わせることが、学習活動や課題遂行、学習成果を支えることが示されています(Lazonder & Harmsen, 2016)。
放課後の時間だからこそ、この豊かな試行錯誤の時間を最大限に残すことが重要だと考えています。
HAKOLABが「大学生メンター」を採用する理由

探究型学習スペース「HAKOLAB(はこラボ)」では、子どもたちの活動の伴走者として現役の大学生メンターが参加しています。
「子どもに教えるなら、ベテランのプロ講師だけで固めたほうがよいのでは?」と思われるかもしれません。しかしHAKOLABでは、学びの質と安心感を最大化するために明確な役割分担を行っています。
- プロの教育設計・運営スタッフ:
安全管理の徹底、探究プログラムのカリキュラム監修、学びの構造設計を担当 - 大学生メンター:
現場で子どもと同じ目線に立ち、対話・実験・ものづくりの試行錯誤を一緒に楽しむファシリテーターを担当
「先生すぎず、友だちすぎない」。少し先を歩く大学生メンターが隣で一緒に「なんでだろう?」と面白がってくれるからこそ、子どもは失敗を恐れずに自分のアイデアを言葉にできます。
「自分の考えを聞いてもらえた」という経験に加えて、自分で考え、実際に試し、「できた」という経験を積み重ねることが、「自分ならできる」という自己効力感を育み、自発的な行動(やってみよう!)へとつながっていきます。
自己効力感を提唱したBanduraは、その形成にかかわる要因として、実際に自分でやり遂げる「達成経験」、他者の成功を見る「代理経験」、周囲からの励ましなどを挙げています。特に、自分自身の成功経験は重要な情報源とされています。
まとめ:放課後のちょうどいい距離感が、子どもの世界を広げる
わかりやすく上手に教えるスキルは、教育において極めて大切な力です。
しかし、子どもが「学ぶことそのもの」を好きになり、自ら問いを持ち続けるために必要なのは、知識を授けてくれる人だけではありません。
「それ、すごく面白いね」「どうしてそう思ったの?」「じゃあ、一緒に試してみようか!」
そう声をかけてくれる、少し年上の身近な憧れの存在。
親でも、学校の先生でも、友達でもない「ナナメの大人」との出会いが、子どもの視野と可能性を大きく広げていきます。放課後だからこそつくれるこの絶妙な距離感こそが、子どもの自立した学びを育むかけがえのない土壌になると、HAKOLABは信じています。
参考文献
Ryan, R. M., & Deci, E. L.(2000)
“Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being.”
American Psychologist, 55(1), 68–78.
DOI: 10.1037/0003-066X.55.1.68
Niemiec, C. P., & Ryan, R. M.(2009)
“Autonomy, competence, and relatedness in the classroom: Applying self-determination theory to educational practice.”
Theory and Research in Education, 7(2), 133–144.
DOI: 10.1177/1477878509104318
Mammadov, S., & Schroeder, K.(2023)
“A meta-analytic review of the relationships between autonomy support and positive learning outcomes.”
Contemporary Educational Psychology, 75, 102235.
DOI: 10.1016/j.cedpsych.2023.102235
Lazonder, A. W., & Harmsen, R.(2016)
“Meta-Analysis of Inquiry-Based Learning: Effects of Guidance.”
Review of Educational Research, 86(3), 681–718.
DOI: 10.3102/0034654315627366
Ortiz Galarza, M. L., Wilson, A. T., Grigorian, S., & Wang, X.(2026)
“Important characteristics and roles of near-peer mentors for engaging students in informal mathematics learning.”
International Journal of Mentoring and Coaching in Education, 15(2), 156–172.
DOI: 10.1108/IJMCE-05-2024-0058
この記事を書いた人
遠藤奈央子
株式会社ビジョンゲート代表取締役/民間学童「こどもクリエ塾」代表。2011年より小学生の放課後教育に携わる。社会福祉士。
著書に『「民間学童」の作り方』(日本実業出版社)、『「自分でできる子」に育つ 放課後時間の過ごし方』(講談社)。
HAKOLAB(はこラボ)では、サービス・教育プログラムの企画設計を担当。
