「宿題やった?」
「まだ」
「先にやっちゃいなさい」
夕方になると、毎日同じやりとりになる。5分後に見ても、ランドセルすら開いていない。小学1年生・2年生の保護者からよく聞く悩みです。
ただし、「宿題をやらない=勉強が嫌い」「やる気がない」とは限りません。低学年はまだ、自分で時間を決め、遊びから気持ちを切り替え、やりたくないことにも取りかかる力を育てている途中です。
声をかける回数を増やすより、次の3つを整える方がうまくいくことがあります。
- 始めやすくする
- 少し自分で決める
- 誰かと一緒に取り組む
民間学童「こどもクリエ塾」で16年間、子どもたちの放課後を見てきた経験をもとに、家庭でできる工夫をまとめます。
なぜ、小1・小2は宿題をなかなか始めないのか
親から見ると、「5分もあれば終わるのに、どうしてやらないの?」と思うことがあります。子どもにとっては、問題を解くことだけが宿題ではありません。
- 遊びをやめる
- ランドセルを開く
- 宿題を出す
- 鉛筆を持つ
- わからなくても続ける
この「始める」までにも、いくつもの切り替えがあります。さらに、「早くやりなさい」と言われることで、かえってやりたくなくなることもあります。
心理学では、自分の行動を強くコントロールされていると感じたときに反発が生まれることを「心理的リアクタンス」と呼びます。一方、宿題に関する研究では、親が子どもの考えを尊重したり、一定の選択肢を与えたりする「自律性を支える関わり」が、子どもの自発的な動機づけや宿題への努力と関連することが報告されています。
大切なのは、親が全部決めて動かすことだけが、宿題を習慣にする方法ではないということです。
家庭でできる3つの工夫

工夫1|「全部やって」ではなく、まず始められる形にする
「宿題やって」という言葉には、子どもから見ると、プリントも計算も漢字も、全部終わらせるというゴールが含まれています。なかなか始められない日は、もっと小さくします。
- 「まず1問やってみる?」
- 「ランドセルを開けようか」
- 「算数だけ先に出してみよう」
最初の一歩が小さければ、始めやすくなります。始めてしまえば、そのまま2問、3問と進む子もいます。
ここで重要なのは、「1問だけやらせる」のではなく、「始めるところのハードルを下げる」ことです。できたときには、「ちゃんとできたね」だけでなく、次のように行動の変化を言葉にします。
- 「自分で始められたね」
- 「さっきより早く取りかかれたね」
低学年では、こうした小さな成功の積み重ねが習慣づくりになります。
工夫2|「今すぐやりなさい」ではなく、小さく選ばせる
宿題をするかしないかまで、子ども任せにする必要はありません。一方で、すべてを親が決めなくてもよいのです。
- 「算数と国語、どっちからやる?」
- 「おやつの前と後、どっちがいい?」
- 「机とリビング、今日はどっちでやる?」
選択肢は2つくらいで十分です。やることは決まっていても、やり方の一部を自分で決められる。この小さな違いが、「やらされている」から「自分で決めた」への入口になります。
低学年だからこそ、枠は大人がつくり、その中で少しずつ自分で決める経験を増やします。手を離す、という意味ではありません。
工夫3|一人でできないなら、「一人でやらせる」にこだわらない
こどもクリエ塾でも、宿題に取り組む時間があります。最初から全員が喜んで宿題を始めるわけではありません。それでも、周りの子がランドセルを開き、鉛筆を出し、宿題を始めると、それまで別のことをしていた子も「じゃあ、私もやろうかな」と始めることがあります。
先生が何度も「宿題をやりなさい」と言ったからではありません。周りで誰かが始めていること自体が、取りかかるきっかけになるのです。心理学では「ピア効果」と呼ばれる現象です。
子どもは周囲の行動を観察しながら学びます。だから、小1・小2で「一人で宿題ができない」ことを、それだけで問題だと考えなくてよいのです。誰かと一緒に取り組む中で、少しずつ自分の習慣にしていけば十分です。
大人でも、一人では始めにくかった仕事が、周りが集中している場所に行くと進むことがあります。子どもも同じです。
このとき、答えを先回りして教えるより、次のように一緒に考える方が、子ども自身が次へ進む力につながります。
- 「どこまでわかった?」
- 「もう一度問題を見てみようか」
今日から使える声かけ
| 言いがち | 代わりに |
|---|---|
| 宿題やった? | 今日はどれから始める? |
| 早くやりなさい | まず1問だけやってみようか |
| まだやってないの | ランドセルを開けようか |
| ちゃんとやりなさい | 自分で始められたね |
| 一人でやりなさい | 一緒に最初だけやってみようか |
家庭だけで毎日は難しい、という前提
ここまで読むと、「なるほど。でも夕方に毎日そんなに丁寧に付き合えない」と思う方もいるかもしれません。その通りです。
仕事をしながら夕食をつくる。洗濯物もある。明日の準備もしなければならない。その横で、「どっちからやる?」「まず1問だけやってみようか」と毎日落ち着いて付き合うのは、難しい日もあります。
だから、家庭ですべて解決しようとしなくてもよいのです。学童、習い事、家庭学習、オンライン。子どもが取り組みやすい環境を、家庭の外にも持つ。それも放課後の選択肢の一つです。
こどもクリエ塾でも、学童という集団の中だから自然につくれる宿題時間があります。家庭には家庭の良さがあり、集団には集団だからできることがあります。どちらかが正解なのではなく、子どもと家庭に合う形を組み合わせればよいと考えています。
HAKOLAB(はこラボ)での取り組み
こどもクリエ塾で長く大切にしてきた考え方を、自宅の放課後でも取り入れられるようにしたのが HAKOLAB(はこラボ)です。

「おべんきょう」では、小1・小2を中心に、少人数でそれぞれの宿題や家庭学習に取り組みます。全員が同じ問題を解く一斉授業ではありません。それぞれが自分の課題に取り組み、わからないところがあれば先生と一緒に考えます。画面の向こうには、同じように取り組んでいる子がいます。
一人ではなかなか始められない日にも、「みんなもやっているから、私も始めよう」と思える時間を、自宅につくるためです。
HAKOLAB(はこラボ)は宿題だけのサービスではありません。理科実験、アート、英会話、体験キットなどを通して、宿題の先にある「好き」「なぜ?」「やってみたい」も同じ放課後の中で育てていきます。宿題の代行ではありません。
焦らず、その途中をつくっていく
小1・小2が宿題をやらないとき、「もっと言わなければ」と思いがちです。声をかける回数を増やす前に、まず一つ変えてみてください。
- 始めるところを小さくする。「全部やって」ではなく、「まず1問」。
- 小さな選択肢を渡す。「今すぐ」ではなく、「どっちからやる?」。
- 一人でできないなら、一緒にできる環境を使う。一人でできることだけを、自立のゴールにしない。
この記事を書いた人
遠藤奈央子
株式会社ビジョンゲート代表取締役。2011年より民間学童「こどもクリエ塾」を運営し、16年間、子どもたちの放課後の学びと成長に携わる。一般社団法人民間学童保育協会代表理事。社会福祉士。
著書に『「自分でできる子」に育つ 放課後時間の過ごし方』(講談社)、『「民間学童」の作り方』(日本実業出版社)。
HAKOLAB(はこラボ)は、こどもクリエ塾で培ってきた放課後の学びを、より多くの家庭に届けるために立ち上げました。
参考文献・参考情報
- Feng X, Xie K, Gong S, et al. Effects of Parental Autonomy Support and Teacher Support on Middle School Students’ Homework Effort: Homework Autonomous Motivation as Mediator. Frontiers in Psychology, 2019.
- 開発経済学における教育開発分野の実証研究から学ぶ 第21回 子どもの学習へのピア効果(peer effect)の推定. 一般社団法人 国際開発学会, 2024.
- Xu J, et al. Reciprocal Effects Among Parental Homework Support, Effort, and Achievement? An Empirical Investigation. Frontiers in Psychology, 2018.
- Influence of parental structure and chaos on homework anxiety in elementary school students: the mediating role of homework motivation. Frontiers in Psychology, 2024.
- Reciprocal relationships between parental and scholastic homework assistance and students’ academic functioning at elementary school. Frontiers in Psychology, 2023.
※研究結果は対象年齢・地域・研究方法が異なるため、個々の小学1・2年生にそのまま当てはまるものではありません。本記事では、研究知見と、こどもクリエ塾での16年間の実践経験を分けて記載しています。
