「探究学習が大切」と聞く機会が増えました。
でも、家庭で探究学習と言われても、
「何をさせればいいの?」
「自由研究みたいなもの?」
「親がテーマを考えないとできない?」
と思う方も多いのではないでしょうか。
家庭での探究学習は、難しく考えなくて大丈夫です。
子どもの「好き」「気になる」「やってみたい」から始めて、読む、調べる、作る、試すへ広げていく。
まずはそれで十分です。
民間学童「こどもクリエ塾」では、2011年の開校時から、プロジェクト型学習(PBL)を放課後の場で積み重ねてきました。そこで何度も見てきたのは、ひとつの「好き」が見つかると、その分野だけではなく、読むこと、書くこと、調べること、時間の使い方まで変わっていく子どもたちの姿です。
今回は、研究でわかっていることと、放課後の現場で実際に起きたことの両方から、家庭でできる探究学習について考えます。教室に通う形でも、自宅で続ける形でも、出発点は同じです。
探究学習、PBL、アクティブラーニングは「同じもの」ではない
日本では、探究学習、プロジェクト型学習(PBL)、アクティブラーニングが、ほぼ同じ意味で語られることがあります。いずれも「子どもが受け身で終わらない学び」を指す言葉として広がりました。ただ、起源も、教室での進め方も、実はさまざまです。
ルーツのひとつは、アメリカの教育哲学者ジョン・デューイの経験主義です。デューイは、学びを「完成した知識を受け取ること」ではなく、やってみて、つまずいて、考え直し、また試す経験の連続として捉えました。関心のあることを手と頭で扱うなかで、知識は使えるものになる、という考え方です。
その流れのなかで、20世紀初頭には「プロジェクト・メソッド」が広がり、のちにプロジェクト型学習(Project-Based Learning)として整理されていきます。一方、アクティブラーニングは、講義中心の受け身の学びを見直すための、より広い傘の言葉です。日本の学習指導要領でいう探究学習は、「問いを立て、情報を集め、まとめ、また次の問いへ進むサイクル」を重視します。
整理すると、次のように見るのがわかりやすいと思います。
- アクティブラーニング:子どもが能動的に参加する学び方の総称
- 探究学習:自分の問いを起点に、調べ・考え・表現し、次の問いへつなげる学び
- プロジェクト型学習(PBL):テーマや成果物に向かい、計画し、試し、完成まで担う学び
重なる部分は大きいです。ただし、「グループで話し合えば探究」「工作をすればPBL」「体験すればアクティブラーニング」ではありません。大切なのは呼び名より、子ども自身がやりたいことを見つけ、その実現に必要なことを自分で取りにいくかどうかです。
こどもクリエ塾が開校時から取り入れているのは、アメリカ・ミネソタ州で発展したエドビジョン型のプロジェクト・ベース学習です。導入当初は、千葉大学大学院教育学研究科教授を務め、日本PBL研究所理事長としてエドビジョン型PBLの紹介・普及を進めていた教育学者・上杉賢士先生の監修のもとでスタートしました。
上杉先生が紹介したエドビジョン型PBLでは、学習者自身の興味や問題意識を重視します。こどもクリエ塾でも、プロジェクトは「先生が決めたことを上手に完成させる時間」ではありません。
子ども自身が本当にやってみたいことを見つけ、それをどう実現するか考える。
家庭で探究学習をするときも、同じ起点で十分です。
探究学習は「難しいことを勉強すること」ではない
プロジェクト型学習は、先生から与えられた正解を覚えるだけではなく、自分でテーマや課題に向き合い、調べたり、試したり、誰かと相談したりしながら成果につなげていく学び方です。
研究でも、PBLは従来型の授業と比較して、学業成績だけでなく、学習への態度や思考スキルにプラスの効果を示す報告が積み重なっています。2019年のメタ分析では、従来型指導と比べて学業成績に中程度から大きい肯定的な効果が示されました。2023年のメタ分析でも、学業成績、学習への態度、思考スキルへの肯定的な効果が報告されています。
ただし、研究ごとに対象年齢やPBLの方法は異なります。
「探究学習をすれば成績が上がる」という単純な話ではありません。
私が注目したいのは、子どもが「自分から知りたい」と思う入口をつくれることです。家庭でも教室でも、その入口は「好き」から始まります。
「好き」は、その場で終わるものではない
教育心理学には、興味は段階的に育っていくという考え方があります。
HidiとRenningerによる「興味発達の4段階モデル」では、最初は何かのきっかけで生まれた一時的な興味でも、それが維持され、本人が自分から関わる機会が増えることで、より持続的な個人の興味へ発達していくと考えられています。
つまり、
一度「面白い!」と思わせれば終わりではない。
そのあとに、
「もっと知りたい」
「もう一回やりたい」
「自分でも調べたい」
が続く環境が大切です。
自己決定理論でも、人が自ら学びに向かいやすくなる条件として、「自分で選んでいる感覚(自律性)」「できるという感覚(有能感)」「誰かとつながっている感覚(関係性)」が重視されています。探究学習は、この3つをつくりやすい学び方でもあります。
テーマを自分で選ぶ。
試してみる。
できなければ考え直す。
必要なら人に聞く。
そして、自分なりのものを完成させる。
だから私は、家庭で探究学習をするときも、最初から「勉強になるテーマ」を親が探す必要はないと思っています。
「本を読まない子」が、おばけの本を欲しがった

こどもクリエ塾で、普段ほとんど本を読まない子がいました。
その子が夢中になったのが、プロジェクトで取り組んだお化け屋敷づくりでした。
どうしたら怖くなるのか。
どんなおばけがいるのか。
おばけには、どんな話があるのか。
知りたいことが次々に出てきます。
すると、ある日その子が初めて親に、
「おばけの本を買って」
と言いました。
読書をさせようとして本を渡したわけではありません。「本を読みなさい」と言ったわけでもありません。
おばけをもっと知りたい。そのために本が必要になった。
そこから、本を読むようになっていきました。
これが探究学習の面白いところです。読むことを目的にしなくても、好きなことを追いかける途中で「読む必要」が生まれます。
家庭でも同じことが起きます。恐竜が気になれば図鑑が欲しくなる。料理が面白ければ分量を読めるようになる。必要な言葉は、興味のあとにやってきます。
YouTubeを見るだけだったタブレットで、10枚の台本を書いた

別の子は、タブレットといえばYouTubeを見るために使うことがほとんどでした。
ところが、演劇の企画に夢中になると状況が変わりました。
「こういう話にしたい」
「この登場人物には、こう言わせたい」
「ここでもう一回盛り上げたい」
自分たちで演劇をつくるために、タブレットを使って台本を書き始めました。最終的には、A4で10枚ほどの台本を書き上げました。
「タブレットを見る時間を減らしましょう」と言ったわけではありません。同じ道具でも、
動画を見るためのものから、
調べるものへ。
書くものへ。
自分の考えを形にするものへ。
使い方が変わったのです。
デジタル機器との付き合い方を考えるときも、「何分使ったか」だけでなく、その時間に何をしていたのかを見ることが大切だと思っています。
お菓子づくりから、理科実験にも、勉強にも広がった

オリジナルのお菓子づくりに夢中になった子もいました。
最初は単純に、「こんなお菓子を作りたい」という興味です。でも作り始めると、疑問が出てきます。
なぜ膨らむんだろう。
材料を変えたらどうなるんだろう。
温度を変えると何が違うんだろう。
そこから、理科実験にも興味が広がっていきました。
さらに面白かったのは、勉強の仕方まで変わったことです。その子は進学塾にも通っていましたが、それまでは課題に時間がかかり、のんびり取り組むことが多い子でした。ところが、
「お菓子づくりをする時間がほしい」
という目的ができると、自分から塾の勉強を早く始めるようになりました。やるべきことを先に終わらせて、お菓子をつくる時間を確保する。時間の使い方にメリハリが生まれました。
ここも、「お菓子づくりをすれば勉強ができるようになる」という話ではありません。
自分が本当にやりたいことがあることで、ほかの時間の使い方まで自分で考え始めた。
私はそこが大切だと思っています。
「好きが見つかると、ほかも伸びる」のはなぜ?
子どもの好きなことを大切にすると、「好きなことばかりしていて大丈夫?」と思うことがあります。
でも、好きなことを深く追いかけるには、実はたくさんの力を使います。
本を読む。
人に聞く。
検索する。
比べる。
計算する。
文章を書く。
失敗してやり直す。
人に説明する。
学校では「国語」「算数」「理科」と分かれているものが、子どもの興味の中では自然につながっています。だから、
「まず勉強ができるようになってから、好きなことを」
だけが順番ではありません。
好きなことを追いかける中で、読む必要が生まれたり、計算する必要が生まれたり、書く必要が生まれたりする。「好き」は勉強から離れる時間ではなく、学ぶ理由そのものになることがあります。
家庭でできる探究学習は、3つだけ意識する
家庭でPBLのカリキュラムをつくる必要はありません。私は、まず次の3つで十分だと思っています。
1|子どもの「気になる」を、すぐに終わらせない
「なんで?」と聞かれたときに、親が全部答えなくても大丈夫です。
「なんでだろうね」
「調べてみる?」
「試してみようか」
と、一つ先につなげる。答えより、次の疑問を残すことを意識します。
2|調べるだけで終わらず、何かやってみる
恐竜が好きなら図鑑を読むだけでなく、実物大を測ってみる。
料理が好きなら、材料を変えて比べてみる。
電車が好きなら、路線図をつくってみる。
YouTubeで工作を見たなら、自分でも作ってみる。
見る・読むから、手を動かすへ。
デューイが大切にしたのも、経験そのものではなく、経験を振り返って次の行為につなげることです。ここで体験が深くなります。
3|完成度を親が上げすぎない
ここは意外と大切です。子どもがつくったものを見ると、「もう少しこうした方がいい」「こっちを調べた方が立派になる」と言いたくなります。
でも、親が完成度を上げるほど、いつの間にか親のプロジェクトになります。途中で失敗しても、少しくらい不格好でも、
「あなたはどうしたい?」
を先に聞く。探究学習では、きれいな成果物より、自分で考えて次を決めた経験の方が重要です。
放課後は、探究学習と相性がいい
学校では、時間割があります。みんなで同じ課題に取り組む時間も必要です。
一方、放課後には、
自分で選ぶ。
寄り道する。
昨日の続きをする。
途中で別のことに興味を持つ。
そんな自由があります。だからこそ、「好き」を起点にする探究学習と放課後は相性がいい。
毎日大がかりなことをする必要はありません。今日気になったことを、明日もう一度調べる。週末に試してみる。そのくらいから十分始められます。
続け方は、家庭ごとに違ってよいと思います。家庭だけで小さく続けるご家庭もあれば、教室のプロジェクトのなかで深めるご家庭もあります。どちらが欠けている、という話ではありません。その子の生活に合う場所で、「やってみたい」が途切れないことが大切です。
通う形と、自宅で続ける形
こどもクリエ塾は、教室という場で、子ども同士の関わり、途中の失敗、発表までの過程を日常の放課後に埋め込んできました。通えるご家庭にとっては、その場そのものが探究の土壌です。
一方で、小学校入学を境に、下校時間、宿題、送迎、習い事が重なり、教室まで通う余裕がないご家庭もあります。いわゆる「小1の壁」のなかで、「体験させたい気持ちはあるのに、続けられない」という声も少なくありません。
HAKOLAB(はこラボ)は、こどもクリエ塾で培ってきた「好きから始める」「体験して終わりにしない」という考え方を、送迎なしで自宅に届ける選択肢として2026年9月にスタートしました。毎月届く体験キット、自分のペースで見られる動画、声で質問できるAI先生、少人数のライブレッスンを組み合わせ、子どもが「これやりたい」を家で試せるようにしています。講師も、こどもクリエ塾で小学生と関わっているチームが担当します。
教室の代わりではありません。教室でやっていることを、自宅ではできない、という意味でもありません。
同じ考え方を、その家庭の放課後に合わせて続けるための別の届け方です。
すでにこどもクリエ塾に通っているお子さんにとって、教室でのプロジェクトや友だちとの試行錯誤は、それ自体が十分に豊かな探究です。HAKOLABは、通えない距離や時間のなかでも、家庭での「試す」を支えたいご家庭のためのものです。
家庭での工夫がうまくいかない日があっても、それで探究が失敗したことにはなりません。好きは、一度で根付くものではなく、何度か触れて、少し離れて、また戻ってくるものだからです。
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この記事を書いた人
遠藤奈央子
株式会社ビジョンゲート代表取締役。2011年より民間学童「こどもクリエ塾」を運営し、子どもたちの放課後の学びと成長に携わる。一般社団法人民間学童保育協会代表理事。社会福祉士。
著書に『「自分でできる子」に育つ 放課後時間の過ごし方』(講談社)、『「民間学童」の作り方』(日本実業出版社)。
こどもクリエ塾では、教室の放課後でプロジェクト型学習を続けています。
HAKOLAB(はこラボ)では、自宅の放課後でも「やってみたい」を試せる学びをお届けしています。
参考文献・参考情報
- Dewey, J. Experience and Education. 1938.(経験と教育)
- Dewey, J. How We Think. 1910/1933.
- Hidi, S., & Renninger, K. A. The Four-Phase Model of Interest Development. Educational Psychologist, 2006.
- Ryan, R. M., & Deci, E. L. Intrinsic and extrinsic motivation from a self-determination theory perspective. Contemporary Educational Psychology, 2020.
- Niemiec, C. P., & Ryan, R. M. Autonomy, competence, and relatedness in the classroom. Theory and Research in Education, 2009.
- Chen, C-H., & Yang, Y-C. Revisiting the effects of project-based learning on students’ academic achievement: A meta-analysis investigating moderators. Educational Research Review, 2019.
- Zhang, L., & Ma, Y. A study of the impact of project-based learning on student learning effects: a meta-analysis study. Frontiers in Psychology, 2023.
- 上杉賢士『プロジェクト・ベース学習の実践ガイド』(明治図書)
- 日本PBL研究所「エドビジョン・モデルによるProject-Based Learning」
- こどもクリエ塾「学びの特徴」「プロジェクト型学習」
- HAKOLAB(はこラボ)サービス概要
※PBLに関する研究は、対象年齢、実施方法、期間、比較条件などが異なります。本記事では研究知見と、こどもクリエ塾での実践経験を分けて紹介しています。
